カメラの世界で話題になっている「ミラーレス」が、最近では自動車界でも革新的なテクノロジーとして注目されています。
トヨタは世界に先駆けて、サイドミラーの代わりにドアにカメラを取り付ける「サイドミラーレス」車の市販をスタート。日産やスバルはすでに、さまざまな車種でルームミラーのデジタル化を進めています。さらに日本だけではなく、世界中の自動車メーカーも、同様の取り組みを加速させているようです。視認性や快適性の向上に効果があると言う「ミラーレス」は、今後さまざまな形で私たちのカーライフに変革をもたらすことになるかもしれません。
トヨタが世界初のサイドミラーレス車を市販開始!
最近の車の多くには、バック時に後方映像を車内のモニターに映し出すカメラシステムが設定されています。車のボディが透明ではない以上、物理的に目で確認しきれない「死角」はどうしても生まれてしまいます。それをできるだけ減らし、サポートしようという取り組みのひとつが、後方が確認できるリアカメラによるアシストシステムでした。
ここでご紹介する「ミラーレス」の車も同様に、視認性を高めるためのテクノロジーです。日産は2016年からすでに、デジタル式のルームミラーを市販モデルで採用。2018年10月にデビューした新型レクサスESは、サイドミラーの代わりにカメラを装備した仕様が設定されました。スバルも2017年からオプション装備として、改良型レヴォーグを皮切りにデジタル式ルームミラーを展開しています。レヴォーグ発表から約1カ月後に公表された受注レポートによれば、このミラーを含むセットオプションの装着率が約93%に達しているそうです。
国内での市販化は2016年から合法化されている
「CMS(カメラモニタリングシステム)」と呼ばれるデバイスが日本で認可されたのは、2016年6月のことでした。道路運送車両法が定める自動車の保安基準が一部改正されたことにより、バックミラーやサイドミラーの代わりにCMSを装着した車両を開発・生産することが認められたのです。
もともとCMS導入の動きは、欧州自動車メーカーが先行していました。2016年1月のデトロイトモーターショーでは、ドイツのBMWが「i8ミラーレス」という、そのままの名前で次世代スポーツカーの新しいスタイルをアピールしていました。日本でのCMS展開はもちろん、そうした世界の潮流に則ったものでした。自動車の安全基準に関しては、世界と足並みを揃えつつできる限り早く対応することが、そのまま市場競争力を強化することにつながるからです。
かつて80年代初頭、日本はフェンダーミラーからドアミラーへの移行で、世界的に遅れをとったことがありましたが、今回は世界に先駆けて本格的な実用化を果たした、と言えるでしょう。
ミラーレスの種類①サイドミラー代わりに付ける
CMSの中でも本格的な「ミラーレス」と呼べるのは、レクサスの「デジタルアウターミラー」でしょう。上級グレードの一部にオプション装備として設定されたこのデバイスは、本来なら車体の左右にドアミラーがある部分にパナソニック製のカメラを装着したもの。映像は室内左右のAピラー下に配置された5インチモニターで常時映し出されます。
カメラを内蔵したハウジングは、ドアミラーに比べてとってもコンパクト。その薄くシャープなデザインは、主に走行中の風切り音低減を狙っており、雨や雪などが付着しにくい形にすると同時に、水分を蒸発させるためのヒーターも備えています。改めて室内から見ると、とくに斜め前方の視界がすっきりとした印象に驚かされます。これまでドアミラーがどれほど視界を妨げていたかがよく理解できるかもしれません。
ミラーレスの種類②ルームミラー代わりに付ける
実質的に、CMSの実用化に先鞭をつけたのは日産でした。名付けて「スマート・ルームミラー」。車体後ろのカメラが撮影した画像をデジタル処理して、まるで鏡に映っているかのようにモニターに表示するデバイスです。
室内側に装着されるミラー型モニターのデザインそのものは、従来の形とあまり変わりありません。スマート・ルームミラー機能はオンオフが可能で、OFFにするとこれまでと同じ実像で確認することができます。一方で後席に人が乗ると視界が妨げられてしまう場合には、ONにすることで後方視界を完全にクリアな状態に保つことができます。そのため、天気が悪い時にリアの窓に水滴が付着しても視界を良好に保つことができます。
スバルの「スマート・リヤビューミラー」もシステム的には同様ですが、通常は実像を映すミラーモードで使うのが基本。視界が妨げられる時にスイッチをONにして、デジタル画像に切り替えることを推奨しているようです。
実物のミラーをなくすことで起きるメリット・デメリットとは
斜め前方の視界を広げる効果があるなど、CMSは視認性を高めることが最大のメリットです。サイドカメラの映像は表示される範囲を状況に応じて変化させることができるので、これまで死角になりやすかった斜め後方も見落とすことなく確認できるようになります。また、モニターが室内にあるため、運転中の視線移動が少なくてすむことも視認性向上に繋がる効果のひとつです。雨滴がついてしまったり曇ってしまったりした窓に悩まされることもありませんし、天気に関係なくクリアな視界をキープしてくれるのも運転中の安心感につながるでしょう。
加えてデジタル画像なので、必要に応じて最適な画像に切り替えることも。たとえば、暗い道やトンネルなどでは、明るく見やすい状態を保ってくれます。サイドミラーに代わるタイプとしては、視認性以外にも空力性能を高めた形状にしやすいことがCMSの大きなメリット。これによって、高速道路などでの風切り音が減らされるだけでなく、燃費向上も期待できるのだとか。また、ミラーよりもユニットが小型化されていることから、狭い道でのすり抜けなどでガリっとぶつけることはありません。
ただ、市販車への展開はまだ始まったばかりということもあって、従来のミラーに対するデメリットもいくつか挙げられます。電子部品だけに、故障時の対処にはどうしても不安がつきまといます。カメラが故障したり接触事故などで破損してしまったりした場合、フェイルセーフの確保は必須です。また、実画像とは違って見やすく補正されたデジタル画像には、どうしてもリアル感が希薄に感じるものです。こればかりは、使いながら慣れていくことしか対処する方法はないかもしれません。
今、日本で買える最新ミラーレス車
レクサスES「デジタルアウターミラー」
「レクサスES」は、FF車であることを生かした快適でゆとりのあるキャビンが魅力のひとつ。トヨタ自慢のハイブリッドカーなので、スムーズで力強い走りを楽しむことができます。もちろん燃費の良さも魅力のひとつです。「デジタルアウターミラー」がオプション設定されているのは、最上級の「ES300h“バージョンL”」(車両本体価格:698万円)のみ。オプション価格は21万6,000円になります。
日産エルグランド/セレナ/エクストレイル「スマート・ルームミラー」
「スマート・ルームミラー」は、ディーラーオプションとして日産の大型ミニバン「エルグランド」から設定が始まりました。工賃・税込みの価格は6万円です。ほかに現在は、ミドルクラスミニバン「セレナ」やスポーティSUV「エクストレイル」など、3列シートを装備する車種を中心に展開されています。
スバルレヴォーグ/WRX S4/フォレスター/インプレッサ/スバルXV「スマートリヤビューミラー」
後方警戒支援やハイビームアシスト、サイドビューモニターといった先進安全装備とともに、「アイサイトセイフティプラス」として設定されているのが「スマートリヤビューミラー」。レヴォーグから採用が始まり、以降モデルチェンジされた車種のほとんどに標準装備、もしくはオプション装着することが可能になっています。
まとめ
デジタル表示のミラーは、たんに画像を表示するためだけではなく、情報を提供するデバイスとしての有効性も期待されており、今後さらに高度化していく運転支援システムと連動するようになる可能性があります。かつてドアミラーがフェンダーミラーにとってかわったように、CMSもほどなく「付いていて当たり前」のパーツとして普及が進むかもしれませんね。
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