今やほとんどの車に標準装備されているパワーウィンドウは、いちいち手動式のハンドルを回さなくても、スイッチ操作1つで窓の開閉ができるという、非常に便利な装備です。
しかし、子供でも簡単に開閉操作ができるため、指や首などを挟み込み、大けがを負ってしまったという事故も毎年発生しています。そこで今回は、パワーウィンドウの想像を超える危険性について言及しつつ、挟み込み事故を防ぐ方法をお伝えします。
パワーウィンドウには大人でも危険!
まれに「パワーウィンドウの動きが遅い!」という不満の声も聞きますが、今以上のスピードを求めるのはとても危険なことです。というのも、スイッチ操作ひとつでフロントであれば約3kg、少し小さめのリアであれば約2.2kgもあるサイドガラスをスムーズに開閉しなくてはならないため、ドアにはすでにかなりの力を発揮するモーターが内蔵されているからです。
車種によって変わってきますが、パワーウィンドウ操作によって窓が閉まる力の強さは、約34kgf(重量キログラム)に達すると言われています。これは平均体重が30kgほどである9歳の男の子がぶら下がっても、そのまま窓が上がりきってしまう強さです。成人男性でも、片手で閉まっていくドアを止めるのは大変ですし、年配の方や女性・子供の場合は、両手で体重をかけても止められない可能性があります。
ここまで聞けば、パワーウィンドウの作動中に指や首を誤って挟み込んでしまうと、年齢・性別に関わらず大けがにつながりかねないことを容易に想像できるかもしれません。最大の問題点は、パワーウィンドウの力の強さと危険性があまり理解されていないことです。まずは「パワーウィンドウは便利だが、使い方を誤ると凶器になりうる」ことを、しっかりと認識しましょう。
子どもを事故から守るには
パワーウィンドウによる事故で重傷を負うのは、窓の閉まる力にあがなうことができない10歳以下の子供が大半を占めていますが、事故が発生する原因のほとんどは大人の「認識不足」と「不注意」が大きいということです。
裏を返すと、運転者や同乗する大人がスイッチを触らないよう注意して見ていることで、事故発生率を大幅に減らすことができるということになります。これまでの事例を教訓としたうえで、有効な事故予防策を3つ紹介しましょう。
事故予防法1 操作時の声掛けと確認
最も頻繁に発生するのがドライバーの不用意な操作によって、後部座席乗員の指などが挟み込まれてしまうケースです。途中で異変に気付いて操作を中断できるため、重大事故にはなりにくいものの、決して安全であるとは言えません。小さな子供であれば、開けた窓に手をかけて移動中の流れる景色を楽しむことも多いでしょう。ですので、パワーウィンドウを操作するときには、「窓を閉めるから離れてね!」と一声かけるだけでも、事故の防止になるのです。
また、パワーウィンドウ事故というと、クローズ時の挟み込みにばかりが話題になるものの、逆にいきなりオープンすることで、体重を乗せていた子供の頭や手が車外に出てしまい、対向車や障害物と激突する可能性も0とは言い切れません。こちらの事故の方が考えただけでもゾッとするはずです。
クローズ時、オープン時、いずれの場合でも、パワーウィンドウを操作する際は、必ず声を掛けて子どもが離れた様子を確認してからと心がけましょう。なお、道路交通法では「6歳未満の幼児」を車に乗せて走行する際、チャイルドシートを着用することを義務化しており、着用しなかった場合は違反点数1点が課せられます。チャイルドシートは、幼い子供の命を守る大切なものであるのと同時に、着用しておけば窓の上部まで手や頭が届かないため、挟み込みと飛び出し、いずれの事故も未然に防ぐことができるのです。
事故予防法その2 ウィンドウ・ロックの有効活用
次に紹介する予防策はドライバーではなく、好奇心が強い子ども自身のスイッチ操作(誤操作)によって、パワーウィンドウ事故が発生するケース。こちらもドライバーがほんの少し注意するだけで防ぐことができます。
運転席ドアには、すべてのウィンドウを開閉できるスイッチとともに、ONにすることで運転席以外のウィンドウのオープンとクローズができなくなる、「ウィンドウ・ロックスイッチ」が付いています。小さなお子様ですと、「危険だから、ドアのスイッチを触っちゃだめだよ!」と言っても、なかなかいうことを聞いてくれませんし、自動で開閉する様子を面白がって何度もスイッチをいじる子もいます。ですので、普段からよく小さな子供を乗せる方は、ロックスイッチを「ON」にした状態で、運転するよう心がけましょう。
事故予防法その3 車内に子供だけを残さない
2016年11月、新潟県上越市にあるスーパーに駐車中の車内で、2歳の男児がウィンドウに首を挟まれグッタリしているのを母親が発見しました。その後、即座に119番通報をして、病院へ緊急搬送されましたが心肺停止の重体に至るという非常に悲しい事故が発生しました。
1999年も同様の事故が発生しています。4歳の男児を病院に連れていくため車に乗せ、エンジンをかけた後に忘れ物に気づいた母親が、子供を残したまま自宅へ取りに行き、数分後に戻ると、男児が窓に首を挟まれて意識不明の状態でした。
いずれの事故も通報したのは母親であり、「ほんの数分で車に戻った・被害に遭ったのが幼児だった・エンジンをかけたままにしていた」という共通点が明らかになりました。新潟県の事故が発生したのは寒さが厳しくなる11月だったため、おそらく暖を取るためエンジンをかけたままにしていたのかもしれません。しかし、子供を一人で待たせておくと、パワーウィンドウだけでなく、シフトやアクセルをいじって車が暴走してしまう可能性が高くなり非常に危険です。
いずれの事故でも、エンジンを切りキーを持って車から離れるべきでしたが、待つことに飽きた子供が車から不意に飛び出し、別の車と接触事故を起こす危険もあります。「子供の安全」を最優先するなら、どんなに短時間であっても車内に子供だけを残さないことが大事です。
まとめ
パワーウィンドウによる事故は、子供だけではなく大人が遭遇するケースもあり、その締め付けの強さから、骨折や指の切断といった重傷を負った事案も報告されています。事態を重く見た消費者庁の指導に従い、各メーカーも自動停止装置を付けるなど対策を進めてはいますが、すべての車に標準装備されている訳ではなく、いまさら手動式に戻すというのも現実的ではありません。
事故を無くすには、メーカーの対策に任せるだけでなく、ドライバーの意識向上が必要不可欠です。今回お伝えした3つの予防法は簡単にできることですので、日常的に取り入れてみてください。また、ネット上にはパワーウィンドウの力で野菜が一刀両断されるというインパクトの強い動画も公開されていますので、そうしたものを活用し、日頃から子供に危険性を教えていくのも大事なことかもしれません。
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