
クルマを運転している人なら、誰しも1度は歩行者や自転車、隣の車両などと接触しそうになって、ヒヤリとした経験があるはず。運転者がいくら安全運転を意識していても、国が罰則を強化・徹底していても、これだけ多くの車が走り回っている現代は交通事故が簡単にはなくならないもの。
しかし、普段から安全運転意識を高めていれば、加害者はもちろん、被害者になるリスクを軽減することができるのです。
今回の記事では「交通規則を守る」「シートベルトを締める」などといった、一般的に浸透しているポイントとは少し違い、読者のみなさんが見逃しがちな安全運転意識を高めるコツについて解説します。
安全運転意識の向上は節約にもつながる!
安全運転といえば、一般的に次の3つが頭に浮かびます。
1. 急発進・急ブレーキをしない
2. 法定速度を守る
3. 不必要な加速・減速をせず、周囲の速度に合わせる
これはすべて車の燃費を向上させる「エコドライブ」につながることです。つまり、ガソリン代節約のために日頃から上記のエコドライブを意識するだけで、結果的に安全運転になるのです。
事故を起こして車を修理しなくてはならなくなった時はもちろんですが、万が一、歩行者や自転車を巻き込んでしまった場合は、経済的に大打撃を受けるだけではなく、社会的・刑事的責任を背負わなくてはなりません。安全運転への意識は、運転者と家族そして他人を含めた「命と経済を守る意識」なのだと強く自覚することが何よりも大事だと認識しましょう。
ブレーキは“止まる”ためだけではない
自動車は、「走る・止まる・曲がる」の3要素を正しく、確実に行うことで初めて安全を確保できます。そのうち、ブレーキは「止まる」ための機能だけではないことを、ご存知でしょうか。赤信号に引っかかった時や渋滞の時、目的地の到着した時だけブレーキを踏むという人はいないはずです。
カーブや交差点を曲がるために減速する時も必ずブレーキを踏んでいるはずですが、この時のブレーキングはスピードを落とすという役目ともう1つ、カーブや交差点を安全に曲がるための「グリップ力確保」という仕事も担いまです。減速のためにブレーキを踏むと、車重が一気に前輪にかかり、その重さで前輪と路面の密着度が増すため車はうまく曲がることができるのです。仮にカーブの手前で減速をしても、侵入時に速度を上げてしまえば、しっかりとしたグリップ力を得ることはできません。
もう一つ、応用として正しいカーブの曲がり方をお伝えしましょう。感覚的に言うと、まず減速をしながら歩行者や他車を把握し、ブレーキを踏んだままカーブに侵入することでグリップを安定させます。そして、抜け出す直前にアクセルと踏み替えスピードを上げて直進力を回復させるのです。
しかし、いくらカーブの手前で減速をしても、ハンドル操作時にアクセルを踏んでしまうと、車は外側に向かって大きな遠心力を受けてしまいます。そうなるとグリップ力が維持できなくなり、大きな事故の引き金になりかねません。反対に、ブレーキからアクセルへの踏み替えが極端に遅れると、車体が内側を向きすぎてスピンしたり、車線逸脱につながったりする恐れがあります。
この正確なブレーキングはプロドライバーが安全確保のために身に付けるドライビングテクニックなので、必ず身につけなければならないものではありません。とはいえ、交通事故の大半は交差点侵入時かカーブを曲がっているときに発生していますので、ここで触れた交差点やカーブを曲がる際の「正確なブレーキング」も、安全運転意識向上につながる知識として覚えておきましょう。
「車・人・交通環境」を三位一体で把握・予想すべし!
事故を起こそうと思っていないにもかかわらず、なぜ痛ましい事故が無くならないのでしょうか。その理由の一つには、ドライバーが接近する人や自転車、他の車との距離感の近さに気付かないことが考えられます。
早いタイミングで接近に気付けば、速度を落としたりハンドル操作をしたりして何らかの回避行動が取れますし、必然と安全運転への意識が高まります。しかし、車内は自分だけの閉鎖空間であるため、外の空間から遮断され、歩行者・自転車・他車の気配をつかみにくくなります。
特に夏場の熱い時期は窓を閉め切ってエアコンをかけますし、さらにオーディオで音楽やラジオを聴いていれば危険を知らせるクラクションや人の声が聞こえず接近に気付くのが遅れ、事故を起こしてしまう場合も。
車には、ルームミラーやサイドミラーなど、視覚をサポートする装備がついていますが、安全運転をするには視覚も聴覚もフル稼動させて「車・人・交通環境」のすべてを、的確に把握することが大事です。運転中はオーディオの音量を少し下げるなどして聴覚を確実に確保し、ミラーだけではなく、目視で確認と行動予測をするようにしましょう。
自らの運転技術と車の性能を過信するべからず!
走行中に危険を察知したドライバーが真っ先に行うのはブレーキ操作ですが、「車は急に止まれない」という格言通り、時速40kmで走行中に乾いた路面上でブレーキをかけ、完全停止するまでの距離は「約9m」です。これを聞くと車が急に止まれないことがよく理解できますが、「約9m」という距離にはドライバーが「ブレーキを踏まないと危ない!」と判断を下すまでに車が進む距離が含まれていません。
前者の約9mを「制動距離」と呼ぶのに対し、後者は「空走距離」と呼びます。個人差はあるものの、同じ速度であれば「8m」は進んでしまいますから、そのまま進んでしまえば約17m以内にある障害物に衝突してしまいます。
減速中にハンドル操作などで、衝突を避けることはできますが、周囲を巻き込まないようにするには、視覚と聴覚での状況把握が必要です。また、車速が上がったり路面が濡れていたりして滑りやすい状況の場合は、非常に高い運転技術も求められます。肝心なのは、車が止まりにくいという事実を理解し、自分の運転技術に過信せずに慎重な運転を意識することです。
「車はなかなか止まらない」ことを理解したうえで、即効性のある安全運転意識アップのポイントを3つあげましょう。
・車間距離をできるだけ長くすること
・雨天時はいつもより速度を落とすこと
・タイヤの空気圧や残溝を定期的にチェックすること
最近の車は衝突回避機能や自動ブレーキなど、安全装備が非常に充実していますが、装備しているから「事故を起こさない」というわけではありません。安全装備はあくまでも衝撃を軽減させ、重大事故に繋がるリスクを下げてくれる補助的なもの。その性能を過信しすぎないことも大切です。
ドライバーだけでなく家族との意識共有が大事
交通事故の原因を作るのはドライバーだけではなく、歩行者や自転車側に責任の一端があるケースも少なくありません。ですので、ドライバーだけでなく小さな子供たちやドライバーを引退した年配の方など、家族とも安全への意識を共有していく必要があります。
もちろん、学校や介護施設、地元自治体や警察なども交通安全の啓発活動を行っていますが、家庭内でも独自に安全運転意識を高める活動を行えば、自分や周りの安全を守ろうという意識が高まりやすくなります。家族で普段の行動範囲を一緒に歩いて危険な箇所を注意しあったり、免許更新時の講習で受け取るリーフレットなどを使って交通安全についての家族ミーティングを実施したりしてもいいでしょう。
普段からドライバー自身が安全運転を実践し、子供世代に教えていくことで、将来の「安全運転ドライバー育成」にもつながっていきます。
まとめ
どれほど車の安全技術が向上してドライバーが安全運転意識を高め続けても、交通事故をゼロにするのは至難の技です。今回解説した「安全運転意識を高めるコツ」は、単に事故を起こさないだけではなく、事故を起こしたや事故に巻き込まれたとき、被害を最小限に踏みとどめることにもつながるので、是非とも実践してみてください。
