メディアでも取り上げられることが多い、アクセルとブレーキの踏み間違え事故。ほとんどのケースではドライバーは高齢者です。
運転免許を保有する65歳以上の高齢者はこの10年でおよそ2倍にも増え、それに伴い75歳以上の後期高齢者の踏み間違え事故の件数も増えてきているようです。
読者のみなさんの中には、高齢者のドライバーを家族に持つ方もいるでしょう。「うちの親(家族)は大丈夫だろうか、、、」と気が気でないということもあるかもしれません。
今回は、その「ペダル踏み間違い」現象の原因に迫ってみたいと思います。
運転免許保持者のうち75歳以上の高齢者の割合は6.6%
警視庁の資料によると、2005年から2015年にかけて発生した死亡事故の件数は、6165件から3585件へと減少傾向にあります。しかし、75歳以上の後期高齢者による死亡事故件数は423件から458件へと若干ですが増加傾向にあるのです。
その原因として多く見られるのがハンドルの操作の不適(16%)とブレーキとアクセルの踏み違え(7%)。あやまって踏み間違え建物にそのまま突っ込んでしまった、気づいたら逆走していたなど、ハンドルやペダルの誤操作が原因で犠牲者も伴うような事故が少なくありません。
直近の例を2つ挙げると、2018年2月、茨城県守谷市内にあるホームセンターの敷地内駐車場で80歳の高齢者が運転していた軽ワゴン車が80mにわたって暴走。暴走の最中にはねられた2人が重軽傷を負いました。また、2018年4月には、仙台市のドラッグストア「カワチ薬品 フォレオ宮の杜店」の出入り口に、同市の無職男性(89)の軽乗用車が突っ込むという事故が起こりました。男性は出入り口近くの駐車スペースに車を止めようとして、ブレーキとアクセルを踏み間違えたそうです。たまたま死者は出なかったものの、お客さんの出入りが多いような施設においてこういった事故が頻発しています。
このような高齢者による交通事故の多発により、免許更新時に認知機能検査と高齢者講習の受講を必須とするなどの対策が進められています。また、自身で運転免許証を公安委員会へ返納すると「運転経歴証明書」が申請でき、路線バス料金が半額、温泉入浴料が半額、飲食店が割引になるなど、たくさんの特典を取り付けています。とはいえ、現状はまだまだ事故が減っているとは言い難い状況のようです。
高齢者の踏み間違いによる交通事故の特徴
踏み間違い事故の絶対件数自体は29歳以下がもっとも多いものの、その原因として考えられるのが免許取り立てのため運転スキルが低い、運転頻度が高い世代であるということ。財団法人国際交通安全学会が高齢者と若者に分けて、ペダルの踏み間違いを起こす確率を様々な状況で実験した結果、より複雑な状況下になるほど若者の約3.5倍の高齢者が踏み間違いをしたことが分かりました。
オートマチック車の場合、アクセルペダルは右、ブレーキペダルは左にと、2つのペダルが並んで配置されています。運転操作でしは、右足だけでアクセルペダルとブレーキペダルを交互に踏み替えながら操作することが一般的。それぞれ「踏み込む」という同じ動作で操作するペダルが並んでいるため、誰にでも踏み間違える可能性はあるのです。
高齢者による踏み間違え事故現場の多くが一般道路や交差点、駐車場などで起きています。また、発進時、右左折時、直進時、後退時、どのような運転時に高齢者が踏み間違いの事故を起こしているのか傾向を見ていくと、右左折時は少なく、後退時、発進時、直進時に踏み間違い事故が多く発生していることがわかりました。
交通事故総合分析センターが定期発行している『イタルダインフォメーション』によると、発進時で考えられる事故のパターンでは、駐車中に位置を調整している最中に前方にぶつける、前向き駐車をする際にぶつかる、車体の位置を変えてから発進する時など駐車場での事故割合が高いとのこと。駐車場は一般道路と違って、限られたコンパクトなスペースの中で運転操作を行わなくてはならないため、気持ちが焦ってしまい事故につながってしまうのかもしれません。通常、危険を察知した後、それを回避しようと行動した結果、あわてたりパニックになったりして操作ミスや事故を起こす原因になりますが、そこに次のような高齢者特有となる健康要因も関連してくるようです。
・視力機能の低下
・注意力、集中力の低下
・情報処理の遅れや誤り
・体が思うように動かないため動作に遅れが出たり不正確な動きをする
・体の柔軟性の低下(関節が硬くなり、可動範囲が狭くなる)
年齢に関係なく、普段は冷静に運転操作ができている人でも、小さな子供や動物がふと目の前に飛び出してくるなど予想外の事象が起こると、突発的な行動をとってしまうかもしれません。高齢者の場合はそれに加え、自分が認識しているよりも年齢とともに聴覚や視覚、柔軟性が衰えてしまっていることがあります。
「自分は毎日運転しているし、運転歴も長いから大丈夫」と思っている方もいるでしょう。しかし、歳を重ねて聴覚や視覚が衰えてくると車外からの情報を認識するまでのスピードが落ち、その結果として対処動作が遅れたり、意識したように身体が動かなかったりなどということも起きやすくなります。
体の柔軟性低下については目に見えてはっきりわかるようなものではないため、視力や聴覚と違って普段生活していると意外と気づかないものです。『イタルダインフォメーション』が行った調査では、高齢者は後退時に右および左後ろを向く姿勢、両足大腿部の開き角度、右足先の傾き角度の可動が限られることも踏み間違いに影響するという結果が出ました。
着座姿勢とペダル操作に関するいくつかの事例からは、上半身を右方向にひねり後方を目視した状態で後退する時に、ブレーキペダルを踏む右足先がアクセルペダル側に近づく傾向があるという結果が出ています。
では、踏み間違えを防止するために何か効果的な方法はあるのでしょうか?
踏み間違えを防止するには?
高齢者の踏み間違い事故の原因や傾向を考慮した上で、次のような予防策が考えられています。
●クリープ現象(※)の活用
駐車場のように限られたスペースの場合、発進時または直進時であってもブレーキペダルに足を乗せた状態にしておき、状況に応じてできる限り車両のクリープ現象を活用した運転をしてみましょう(AT車に限ります)。踏み間違えが起きやすい駐車場での運転や急発進の予防に効果があります。
※アクセルペダルを踏むことなく、エンジンがアイドリングの状態で車両が動く現象のこと。
●正しい運転操作が行えるか、再確認をしましょう
年齢を重ねると、身体能力や体の柔軟性は低下していきます。体が思うように動かず、誤った操作をしてしまうことも考えられますので、運転をする前に無理がなく正しい姿勢を取れるように調整しましょう。また、ペダルを踏む足の位置や前後左右がしっかり確認できるかを確認しましょう。もし思ったように動けないようであれば、運転を家族に任せるというのも一つの手段です。
●安全運転への意識を持ち運転に集中
車でお出かけするときは時間的な余裕を持つことで、気持ちにも余裕が生まれます。慌てない、ということは基本中の基本でしょう。また、運転中はカーナビ操作などで目をそらす時間を極力なくし、できる限り運転自体に集中できる環境を作りましょう。
●注意力を高めましょう
駐車場はスペースが限られているだけでなく、死角もたくさんあります。歩行者や他の車に気づいておらず突然目の前に現れてパニックになってしまうということもありえます。左右をしっかり確認し、目や耳から周辺の状況を常に把握しましょう。運転中は注意力を高く持ち、冷静な判断ができるように心がけてくださいね。
●踏み間違え予防グッズを活用する
高齢者による踏み間違い事故の増加を解決するべく、自動車メーカーも事故を防止するアシスト機能の強化をしています。
例えば、トヨタの衝突回避サポート機能の「インテリジェントクリアランスソナー」は、計8個のセンサーで前と後ろをしっかり検知し、間違えてアクセルを踏んでしまったときも、障害物にぶつからないようにブレーキでサポートしてくれます。カメラではなく超音波で検知するため、コンビニの壁面などのガラスもしっかり捉えてくれます。
最新の車には上記のような踏み間違い防止の機能が搭載されているものが多くありますが、現在乗っている車に直接衝突抑制機能が搭載されていない場合は、次のようなグッズで予防対策を検討してみてはいかがでしょうか。
オートバックスセブンが販売している「ペダルの見張り番」は、安全機能がついていない車に後付けで装着できる急発進抑制装置です。ブレーキを踏もうとして誤ってアクセルを強く踏んでしまったときに、車両側の車速とブレーキ信号を検知して誤発進を防止する機能、アクセルとブレーキが同時に踏まれたときにブレーキが優先して作動する機能、この二つの機能がサポートしてくれます。取り付け工賃込みで43,198円ですので、新車に買い換えるより気軽に対策ができますね。
通常のオートマチック車はアクセルとブレーキの2つのペダルを踏みかえて操作しますが、ナルセ機材が提供しているワンペダルは1つのペダルに足を置いたまま操作します。足を右に傾けるとアクセルに、踏めばブレーキです。アクセルをかけたままでペダルを踏んでもクラッチが外れてアクセルが効かない、という仕組み。運転中は常に足がペダルの上にありますので、「踏めば止まる!」という安心感によって、安心・安全運転ができます。シングルタイプは170,000円、別途取り付け料金がかかります。
ご家族の方がもし、「最近お父さん視力が一気に落ちたな」「おばあちゃん、最近足が思うように動かないみたいだな」など体調の変化に気づいたら、運転を変わってあげたり様子を伺ってみたり、積極的に声をかけてあげてみてくださいね。
離れて暮らしている両親が心配…
この記事を読んでいる方の中には、ご両親や祖父母と離れて暮らしているという人も少なくないかもしれません。一緒に暮らしていたら気づくことも、離れていたら意外とわからなかったりするものです。
そんな離れて暮らす家族(特にシニアドライバー)の運転を見守るサービスとして、スマートドライブでは「Smart Drive Families」というサービスを10月より正式に提供開始します(8月中旬から先行予約開始)。
「ちょっとスーパーまで買い物行ってくる」そう言って出かけて早1時間….一体どこに行ってしまったんだろう。。。そんな風に不安になってしまうこともありますよね。
SmartDrive Familiesでは、そんな時もスマホで簡単に現在地や走行ルートを確認できるので、いつどこにいるのか、どんな運転をしているのかが一目瞭然で、設定さえしておけば自動通知も飛んできます。遠くに住んでいても(逆に同居していても)、家族の運転をいつでも見守ることが可能です。
運転時間や休憩時間もわかるので、十分な休憩を取りながら無理のないペースで運転しているのかや、急ハンドル・急ブレーキ・急加速などの運転スコアや改善点も確認することができます。また、将来的には見守られる側への詳細レポートなども提供予定ですので、家族みんなで支え合うようなサービスになっていく予定です。
高齢者の運転リスクは冒頭のとおりなのですが、実際のところ、公共交通機関が充実しているとは言い難い地方では特に、車がないと日常生活そのものが非常に不便だったりします。免許を返納したくてもできない、そんな事情もあるでしょう。
スマートドライブでは、そういった家族もできるだけサポートし、家族間のコミュニケーションが増えることで、踏み間違え事故をはじめとした高齢者全体における事故も減らしていくことを目指しています。
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