音楽や動画のストリーミングサービス、フィットネスや倉庫だけでなく、最近では洋服やアパレル小物のレンタルや飲食まで、日本でも「月定額制」サービスが増えつつあります。ここ数年で増えたこれらの商品やサービスによって、“消費のカタチ”がモノからサービスへと変化していることが明確になってきました。そしてその定額制サービスはモビリティ業界にも普及しつつあり、クルマの所有の仕方も変わりつつあるようです。
海外でも「月定額制」が続々スタート
2017年は、定額制サービスを始める海外の自動車メーカーが相次ぎました。
いち早くサブスクリプションサービスに乗り出したゼネラルモーターズ(GM)は、2017年1月からキャデラックの最新モデルを定額料金で利用できる「ブック・バイ・キャデラック」をスタート。
このサービスは、利用者が専用アプリなどで希望する車種を選択するだけで、専門のスタッフが自宅やオフィスなど指定した場所に自動車を届け、自動車を利用している期間内に次回利用する車種を選ぶだけで毎月更新の際に自動車を交換してもらえるというシステムです。
月額1,800ドル(約19万円、2018年5月)の料金には車両登録料や税金、保険料、メンテナンス、修理、24時間対応の緊急サポート、車内Wi-Fiホットスポット、GMの車内コミュニケーションシステムであるオンスターなどが含まれます。現在ではニューヨーク、ロサンゼルス、ダラスで展開しています。
誰もが知る高級自動車メーカーのポルシェも、2017年11月からアメリカ・ジョージア州のアトランタで乗り放題・乗換え自由の月額制サービス「ポルシェ・パスポート」を開始したことで話題になりました。初期費用には500ドルが必要ですが、月額2,000ドル(約22万円)と3,000ドル(約33万円)どちらかのプランを選べて契約は1ヵ月単位。両プランには走行距離の制限はなく、最高100万ドルの対人対物保険、税金、洗車費用、メンテナンスなどが含まれている乗り放題のサービスです。
ボルボは2017年11月末のロサンゼルスオートショーで、XC40コンパクトSUVを月々600ドル(約6.5万円)で提供するケア・バイ・ボルボを発表、2018年春よりサービスが開始予定です。先述した2社と比べて手を伸ばしやすい金額ではあるものの、他車への乗り換えはなく現時点で利用できるモデルはこの1台のみ。また契約期間は2年ですが、頭金はなしでメンテナンスや保険、消耗品の交換などが含まれた金額です。デジタルキーによって家族や友人とクルマを共有することもできるほか、頼んでおけば給油や洗車、整備の際の引き取りまで対応してくれる「デジタル・コンシェルジュ・サービス」も付帯しています。
ボルボ傘下の高性能ブランド・Polestar(ポールスター)は、2019年に高性能ハイブリッド車(HV)「Polestar 1」の発売を発表しました。ポールスターはオンラインで注文を受け付け、2〜3年の定額制で提供する予定。
フォードは2017年5月からグループ傘下のキャンバスで定額制のサービスを提供しています。キャンバスは初回登録料が99ドル、月500マイル走行可能なプランであれば月額429ドル〜と、他のサービスより利用しやすい料金設定が特徴です。対象となる車種は大衆車の「フォーカス」や「フュージョン」、高級車ブランドの「リンカーン」、人気スポーツカーの「マスタング」など。フォードのディーラーで短期リースに使われていた車両が活用され、サンフランシスコ・ベイエリアとロサンゼルスで展開中。
「ブック・バイ・キャデラック」の責任者であるメロディー・リー氏は、「世界各地に(このサービスの)大きな需要があることが分かった」「当社は(このプログラムによって、特定の車両に対して)長期的な責任を負うという消費者の負担を取り除来ました。その結果、消費者はキャデラックが提供する数多くのモデルと接する機会を持てるようになった。試してから購入できるということは、当社にとっても重要なことだ」と話しています。
さらに2018年はBMW、メルセデス・ベンツも定額制サービスのテストを計画中と発表。高級自動車メーカーは新たなサービスによってマーケットを開拓し、今までとは違う顧客層を獲得して行く手段になっているのかもしれません。このように、海外では高級自動車メーカーから次々と定額制のカーシェアサービスが普及していますが、日本でもこうしたサービスがじわじわと広まりつつあります。
定額制が普及しているワケ
このような定額制サービスは、短期間で利用するレンタカーと、一般的に5〜9年に渡って利用するカーリースの、ちょうど中間に属するような期間のサービスのようです。
レンタカーは短時間から借りられるので便利ではありますが、その都度予約が必要な上、休日であれば空きがないため予約できないということも。お店までクルマを取りに足を運ばなくてはならず、頻繁に利用する人であればそれなりに金額がかかります。なかにはレンタカーだとすぐわかる、「わ」ナンバーを気にする人もいるかもしれません。
カーリースはマイカーとして新車を長期間使用することができる上、将来の維持費込みの定額を月々支払うだけで気軽に所有できます。しかし、購入した場合と違って勝手に改造してしまうのはNGで、月間走行距離の上限目安が決められていることも多いため、超過すると追加費用が発生することもあります。また、原則として契約期間中は車の乗り換えができないため、気になる車種が出てきた際などにカジュアルに車をチェンジするというわけにはいきません。
この2つのサービスの“いいとこどり”を狙っているのが、上述のメーカー運営の乗り換え可能な定額制サービスでもあります。メリットは、手間をかけることなく個人のニーズに合わせてさまざまな車種を利用できること。また、高級車メーカーを筆頭に続々とクルマのサブスクリプションサービスが広がっている背景には、自動車の購入やリースに対する消費者の意識の変化もあります。「車を購入するには様々な手続きが必要なため面倒だ」「購入後の維持費がどれだけかかるか分からないから不安」など、手続きの手間や将来的にかかる不透明なコストに不安を抱く人も少なくはありません。
それらの不安や面倒をできるだけ簡素化しようとするのが定額制(サブスクリプション)モデルのサービスです。サービスによって内容は異なりますが、特徴をひとまとめで書き出すと、
・頭金や初期費用がかからない
・毎月の定額料金に自賠責保険料、各種自動車税、車検やメンテンス費用などが含まれていて生活設計しやすい
・車ディーラーに出向くことなく、申し込みや質問等がオンラインで可能
・契約期間内で複数車種を乗り換えることができたりする
・契約期間を選ぶことで、決めた期間だけ利用する
ひと昔前までは自動車は購入するものという概念が一般的でした。購入し、売るまで乗る。車の買い替えの平均サイクルは7年以上というのが一般的でした。それが、近年はUberのようなオンデマンド配車サービスやカーシェアなどが台頭し「利用」に重きをおいたサービスが成長を見せ、最近では車のサブスクリプションサービスが次々と立ち上がってきています。
様々なモノやコトのシェアや定額化は今後より一般的になっていくトレンドなのかもしれません。「所有」から「利用」へ。サービスにおける新たな価値観がマーケットに根付き始めている今、クルマと人との付き合い方も大きく変わろうとしているようです。
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